名前/小川 葉
掌に、和子
昔、手をつないだことがある人
初恋の人
みぞおちに、浩人
祭りの日に喧嘩した
それから何故か知らないけれど
親友になった
右肩に、麗子
距離は縮まらなかった
指先に、紀夫
雨に濡れて歩いていた
最後の一本のセブンスターを
二人で吸った
手の甲に、辰雄
はじめて父と釣りに行った
何も釣れなかったけど
汚れた僕の手を洗ってくれた
あさ黒い手で
汚れが消えるまで洗ってくれた
後頭部に、リエ
僕のおばあちゃん
もうひとつ、良二
僕のおじいちゃん
頭を撫でられていると
飼犬のクロの気持ちがわかった
頬には、クロ
優しい犬
ある日保育所から帰ると
クロはいなかった
体に触れた人たちの
名前が
たくさん残っている
おんぶしてくれた
母の背中にもあるだろうか
僕と妹の
名前がふたつ並んで
へそには、静江
戻る 編 削 Point(6)