名もなきお前のための/ma_non_troppo
はだかの枝先が夜風に揺れると
闇に詩が浮かんだ
霜のように輝く月に向けて
誰にも読むことのできない言葉で
木々は詩をうたった
白鷺のつがいは
しずかに羽をふるわせて
銀色のせせらぎを探している
闇を撫でるように 詩を抱くように
つがいは夜を飛んでいく
そして月明かりは知っていた
大いなる夜のやさしさが
並んで闇へと消えるつがいの影の
その無音の羽ばたきまでを
そっと励まし続けていることを
名もなきお前よ
ときどき耳を澄ませるといい
ひそやかに行われている営みに
ゆるやかに更新される命の静けさに
白鷺たちはついに羽を休め
せせらぎは銀色にかおっている
星々の瞬きが水面を転がり流れ
刺すほどに冷たい夜風が
春を待つ枝先を揺らす
永遠にうたわれる お前のための詩だ
戻る 編 削 Point(2)