In The Rye/寒雪
 
ライ麦畑が茜に染まり
盗賊の大地は安息を迎える
小屋に引き上げ
ふと
破れ裂けた手袋を見つめる
実りの季節に煙る
新しい生命の予感は
鼻腔に優しく
土深く埋葬された
五年前の思いを刹那消し去る


俺の心臓に突き刺さった
潔癖なまでの白いリノリウム
か細くたおやかな手で
俺の心をしっかりと握り締めた
その鮮やかな感触が忘れられない


俺の苦しみは
お前の悲しみ
俺の微笑みは
お前の喜び
それは
お前が望んだこと
だから
俺はお前に与えた
汚れのない暖かさを


不意に
お前が小さく呟いた
ありがとう
気付くと
揺らぐ瞳から
止め処ない涙が


二人で歩むべき
無限に感じる道程が
俺に分不相応な
黒い十字架を背負わせる
お前の心が
俺の灯火となって
暗い闇を照らし
二人の世界を
浮かび上がらせてくれる
はずだった


半身をもがれた俺
醜くのたうち回り
地面にはいつくばる


あの時
お前が幸せだったのか
訪ねる術はもうない

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