胡桃/小川 葉
いつからそこにいたのだろう
しわしわの殻に包まれた
わたしの祖父
甘さと渋さを身に秘めて
日が暮れるまで
縁側の外を見ている
殻に閉じこもりながら
本当は外に出たい
忘れてしまった気持ちを
さがしてるように
団欒のテーブルに
胡桃がならぶ
嫁が殻を割ると
実を息子と娘たちが
勝手に食べにくる
祖父にすすめたが
首を一度ふったまま
テレビの向こうを眺めている
その向こうから
祖父の母がやってくる
着物を着ているその人を
思い出していたのかもしれない
遠い目をした祖父が
テレビの可笑しくもないところで
ふっと笑った
翌日も朝から縁側で
祖父は外を眺めている
何をしているのかと問えば
胡桃の実が食べたいのだという
しわしわの殻に包まれて
昨夜の団欒を思い出している
祖母に告げると
ほうっておけと苦笑する
ふりむけば
籐の枕に頭をのせた
祖父が
胡桃のように眠っている
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