けしごむ地獄/岡村明子
 
地獄のとある片隅に
けしごむのかすがうずたかく積もっている
ここはけしごむ地獄
後悔ばかりして生きていた人間が
人生を白紙に戻すため
けしごむを動かす
ぐい、ぐい、ぐい

自分の人生は
書くに値しないことだと
自分でそれを消してゆく

肩がこる
右手が重い
ぐい、ぐい、ぐい
疲れて手を休め、
天(地獄でも上は天だ)を見上げると
恥ずかしかった人生が
どうしようもなく恥ずかしい形で現れる

ある者は
人生のとりわけ情けない部分が
消えにくい赤鉛筆で記してあるのに発狂して
強くこすりすぎた
ぐい、ぐい、ぐい
紙が破れて、血がにじんだ

ばーか、ばー
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