雪と沈黙/瀬崎 虎彦
左手にかなしみ それならば右手に何をつかめばいい?
息が白く地面は固く 僕はこんなにも弱かった
ただこの手のひらに落ちては溶ける結晶のように
無力さもほどけていく事を願い そうはならなかった
夜は時計さえなければそこに同じものとして横たわる
時間の流れる速さを嘆くことさえ 甘えでしかなかった
背筋を伸ばして机に向かうだけで 見えてくるものは違う
僕には僕を取り囲む何に対しても帰属意識がなかった
花びらのように雪は降り 音のない世界を思った
ベランダの手すりに積もる 無意味な水の結晶を眺めて
ただひたすらに意識を明瞭に保つことだけを努めた
やがて沈黙は時計の針の響かせる轟音と混ざり合い
一秒とつぎの一秒の境目を見失った
弱きものたちはその弱さにさえ気づかずに眠りに就くのだ
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