生誕前夜からの手紙/朧月
生まれる前日の私は
今日の日のことを知っていた
今日に憂いて泣くことを
先に私は知っていた
愛を求めて痛むことも
求めぬ愛に泣くことも
先に私は知っていたのだ
父よ母よ
あなたがあなたの想いで
私をつくりたもうと
私は私の想いで生まれてきたのだ
いかなるしうちにあおうとも
今私がここにあることは偶然ではない
私という生命は生かされた
私は滅びないことを知っていた
そしてこの先に起こるであろう日を知っている
ならば
今 恐れることはなにもない
驚くことはあったとしても
ただ忘却されていた手紙が
ふいに届くのだろう日には
そうであったか
と しみじみそれを読み上げればいいのだ
戻る 編 削 Point(5)