人 (2004.9.25)/和泉 輪
 
 
 たった一言交わして
 すれ違うだけの人にも
 私を憶えていてほしい
 それは贅沢なことだろうか


 食卓や墓地や廃屋にさえ
 いつも人の面影があった
 私の生まれは人だから
 こんなにも人が懐かしい


(夜が一瞬 私を照らす
 人は何にも気付かずに
 忙しく種を蒔いている
 まだ見ぬもう一人のため)


 帰るべき場所には人がいた
 そうして私はまた生き始める
 せめて知らない私達のために
 愛よ おまえは出稼ぎにゆけ
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