死の伝染/yumejiki
 
れながら 線路の上でもがく 針金が刺さった蝶を見つけた
針金を引き抜き 救ってやるんだという 束の間の愚かな使命感に酔った
やがて汽笛が鳴り 驚いて線路から離れると 蝶は逃れられずに轢き殺された
太った醜い運転手の酸っぱい脂汗が空中で飛び散り
石炭の木片が線路の脇に落っこちて 窓硝子が頬を傷つけた
手のひらに綺麗な蝶の羽をのせると 死んだという実感は全くわかず
せめてもの償いに 帽子を脱いで そのなかに羽を入れようとすると
綺麗な羽はとても脆く あっという間に粉々に砕けた 
やがて 灰色の空はどす黒く澱み 雨は強くなった
あまりの寒さに耐えかねて 手のひらに吐息を吹きかけると 
その温かさが逆に悲しく 現実であることを知った  
汽笛は汽笛でなく 運転手は運転手でなく 蝶は蝶でなかったのだ
そして それを知るのはまだ早すぎた
頭の中の何かが弾け そしてそれが何か汚いものを生んだ
そこから奴との闘いが始まった だがもう悔いてはない
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