母/綾瀬のりこ
 
叩かれた
殴られた
蹴られた

常に恐ろしい存在だった
決して逆らわなかった
母に気に入られるように
顔色を伺って生きてきた
いつもどこか緊張していた
心の底から甘えた記憶はない

歳を重ねた母は小さくなって
今では一人で歩くこともままならない
弱った母には
私を殴る力は無い
もう恐れる必要はないのだ

しかし染み付いた習慣は変えられない
常に気を使う
続く緊張感
心にもない優しい言葉

母は最期まで
優しい娘を持ったと信じて
死んでゆくのだろう
そして私は
乾いた涙を流すのだろう
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