振り返らない/智鶴
言葉も景色も見失って
君の姿をただ追いかけている自分に気付いたのは
君の姿が影に消えて
僕はたった一人
ぽつりと何処かの森の中に取り残された頃だった
夕立ちに怯えていたのは
君の目が氷のように冷たくて
僕の体を切り裂いて
殺してしまいそうだったから
ただ僕が、戒めるための剣を
誰にもばれないように懐にいつも忍ばせているのを
君は未だ知らずにいる
夕暮れの灯に憂いた夢の甘さ
触れないでと笑う君の目が
僕には朱色に溶けて見えた
貴方がいるから私は酷く哀しいの
そう言って君は僕の腕で泣いた
その意味を僕は
まだ確信できずにいる
美しいものは全て儚すぎる
僕達の絡めた感覚のように
何処にもないものを求めて
僕は未だ森の中に張り付いている
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