ユウコトイサオ/ブライアン
いがする。
それを彼は、祖父の匂いだと覚え、僕は父の匂いだと覚えた。
父が乗っている乗用車の後部座席。
週刊誌と、泥のついた長靴。
シートに染み付いて落ちない、父の匂い。
田園都市線で眠っていた時だった。
ふと目がさめると、父の匂いがあった。
泥だらけの作業服。昨日のアルコールの匂いだろう。
しゃべりだすとふわっとにじみ出る口臭。
つるはしの話をしていた。
機械では壊せない奇怪な箇所を、つるはしで壊していたらしい。
渋谷の駅。
二人の作業服を着た男性は降りる。
彼らは、おしゃれな服装をした男子に混じって、
いまだ、つるはしの話をしていた。
あんじゃできねって、と言いながら、
並ぶエスカレーターの横、階段を上って行った。
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