ひとこと/浅井実花
心から溢れ出ん限りの言葉を尽くして
わたしがあなたに言えることはたった一言
短くて、簡単で、誰でも知っている
小さい頃から教わった、単純明快な
そんな一言しか
愚かなわたしをずっと見ていてくれた
賢者は歴史から学び愚者は経験から学ぶと
ずっと言い聞かせてくれたあなたに
わたしが与えたものは何だっただろうか
勉強になった、その一言を残し
自由になった鳥のように
羽を整え、飛ぶ準備をしているあなた
その羽が折れることがありませんように
その心が折れることがありませんように
11月、寒い日
わたしとあなたは心の別れを告げた
12月、寒い日
7年振りに一人で眠る
1月、寒い日
心寄せ合えないと知り
未来はどこへ消え失せたのでしょうか
わたしの過ちごと、あなたの傷ごと
ぽっかりと開いた穴には
猫が一匹、寄りそうように二人の間で眠る
短くて、簡単で、誰でも知っている
小さい頃から教わった、単純明快な
そんな一言しか
残されていないのです
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