春色賛歌/岬かおり
 
伸ばした僕の腕

指先の数センチ先を

君の栗色の髪が通り過ぎていった。



「ねぇ、人って悲しみがなくても悲しみを探してしまうから、

 ねぇ、私はこれから喜びがなくても喜びを探しに行きたいの」



いつか木漏れ日のカフェテラスで

君が零していった言葉が今になって輝き出している。



独りのような君はいつの間にか一人になっていて

真っ直ぐ前を見据えた目も

軽やかに駆けていく足も

翻るワンピースの裾も

華奢な背中も



とても

とても美しくて。



振り返ったって引き返してきたって

笑いはしない
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