おとうさんへ/朧月
おとうさん
そう呼ばせてください
あなたをおとうさんと呼んだ記憶がないのです
おとうさん
こっちをむいてください
あなたと視線をあわせて話したことがないのです
おとうさんの娘としてこどもとして
私をちゃんと認めてください
私はあなたからうまれました
おとうさんはこどもで
おとうさんはおっとで
おとうさんはおとこでした
でも
おとうさんはおとうさんであったことは
一度もなかったようにおもうのです
そんなことはない
そう言ってください こっちをむいて
あなたが振り向かず
私を見ないで帰ってしまった家庭裁判所の庭に
私のすきな花があったことを
忘れられずに今も
おとうさんの生涯の中で
私という娘があったことを
思い出してくれる日を
ずっとずっと待っています
そしてそんな日がきたら
娘としておとうさんを殴ってやろう
そう決めているのです
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