準備/小川 葉
七時には家に帰ると
公衆電話から連絡があったのに
まだ帰らない父と母
死にそうになって心配してる
僕を見て
祖母は何か知っているのに
おしえてくれない様子で
北上から横手まで
峠道がある
とても深い真夜中の
湖もある
けいさつにれんらくして!
泣き叫ぶと裏口が開き
こちらの心配など一切気にしない
父と母が言葉にならないような
にやけた顔をしていて
僕はただ
二人の無事に安堵して
涙を拭いた
祖母が風呂に入る
ラブホテルという概念が
あのころ僕にはまだなかった
過剰な恐怖とそれに対する
心構えを準備することで
精一杯だった
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