桃色ラビッシュそして清潔な朝日/ソノタ
 
むかし、一匹だけ猫をかっていた。
 この猫のことを思い出すとき、わたしはいつも胸骨に力を入れて鼻から息をつく。大泣きしたいきもちと切ないきもち-これらは全然違うきもちなのだ-がごちゃ混ぜになったような変な気分のとき、わたしはたびたびそうやってそれをやり過ごそうとする。
 わたしはその猫の子猫の時分を知らない。ある日ふらりとやってきてうちに棲みつき、幾つかのほんとうに短い年つきをいっしょに暮らし、彼は死んだ。
 ジジと呼んでいた。黒い天鵝絨のような毛並みをもっていて、わたしは彼のそれをひどく羨ましく思ったことをおぼえている。彼は、身のこなしのきわめてしなやかなこと以外にほとんど猫らしいと
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