二重の空想/依々れんこ
 
るのを見たことはないのだけれど、「川」であることは知っている。コンクリートの底からじわじわ浮き上がるしめった臭い、昼間が落としていったのであろう、換気扇の音が三重になる。
 
 声を聞いた夜が混ざり合っている、背中、背中、背中、背中、でしかない。つけられた目で目を見て話すの、向かいに座っているのはいったい何人? 斜めから差し込むわざと暗い照明が、目を凝らすことの強制をする、〈ふくらむふくらむ〉、お化粧は落としちゃいないし服も着ている、目を閉じない私は聞こえない。

 知った夜が混ざり合っている、私たちは互いに小さな箱を作った――想像と確認で疑似的に安心するための――共有。二層のチョコレートはもう上手く模れない私の一秒毎に摂取した私柔らかくなった骨と退化した筋肉治まらない血流に溶け込んだはずだから目を瞑って私をそのまま食べてしまって私はそれを食べて食べられてこれでやっと……

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