白い風船/殿岡秀秋
ぼくは少年のころ
特別な存在だった
月光が家の前の袋小路を照らすころに
宇宙から迎えの使者がくるはずだった
トイレの中の窓がまぶしく光る夜
ぼくは何事かと小窓をあける
袋小路に円筒の光が立つ
その中に宇宙船が降りてくる
扉が開き
宇宙服を着た使者が降りてくる
「あなたは宇宙の王の子です
人間を経験するために
仮にこの家の子になったのです
これからは宇宙の王の子に戻ります
これはその印の風船です
ただしほかの人間には見えません」
ぼくは白い風船を受けとる
その瞬間からぼくには
宇宙の王の子にふさわしい
力が与えられる
白い風船はどこにも着いてく
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