リョウタロウ/オイタル
拝啓 リョウタロウ君
ぼくは君の立つ位置を知らない
君の電話番号も 住所も 風向きも
君は 積もった雪をかきながら
眼下に広がる田園に額の汗を拭い
そしてゆっくりと
倒れていったという
すりガラス越しに見えた
ワイシャツの襟のよじれが
身に合わなかったのかな
軒のツララの先が
水を流さぬ排水路に届こうとするのを
嫌ったのかもしれない
それとも
いずれにせよ君は
ゆっくりと地面に倒れこんで
真っ青な空と白い雲の頂ばかりを
薄い網膜に留めたという
拝啓 リョウタロウ君
君はたくさんのものを名づけ
たくさんのものを失い
たくさんのものに抗って
それ
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