干し柿の匂い/亜樹
 
 味噌汁や羊羹は暗がりの中で喰うのがいいと谷崎潤一郎が言っていたが、干し柿もそんな部類だろうと、邦春は思った。
 干し柿というのは、何しろ見目がよろしくない。
 硬く皺を寄せて、モノによっては白い粉が吹いている。
 食感はひどくねちゃねちゃしているし、その上歯にひっつく。
 しかし、こう、干し柿の端にかぶりつき、うまい具合に種をよけながら食いちぎると、その断面の透き通った橙色に、一種感銘すら覚える。
 これをロウソク一本の暗がりの中見たならば、どれほど美しいだろうか。
 しかし、わざわざそれだけのために明かりを用意するほど、邦春は悠々とした人生を送っているわけではなかった。
 ちり紙
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