彼と私/敬語
 

「睡魔のように、食欲のように、定期的に絶え間無く襲ってくる殺人意欲の抑え方を僕はよく知らない」

初めて出会ったときに言われた彼の、冗談にしか取れない戯言が、本当は言葉以上の重みを持っていたのに、私は気が付いていた。


「初めはただの好奇心だった。だけど、次第にそれは欲望へと変わり、今では僕の義務ようになってしまった」

そう悲しげに話す彼の、私を見詰めるときの瞳の奥で、時折その“義務”が顔を覗かせているのに、私は気が付いていた。


「今はどうにか押さえ込んではいるんだけど、もう僕の手には負えないところまできている」

視線を真下に落とし、悲鳴に近い声でそう呟いた彼
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