釣り座で考える/北村 守通
忘れてしまっていたはずの言葉を
反射させられるようになっていた
どうやら
自分は戻ってきたらしい
自然に発せられていたはずの言葉に
けっつまづいて
唇を思いっきり噛んでしまった
どうやら
自分の居場所はなくなったらしい
遅くなりすぎた約束を
果たすべき相手が誰であったのかは
もう覚えてもいない
最初に
名前が消えた
ということだけは
覚えているような気がする
未だ
名前を聞いたことのない
隣の釣り人の顔を
気取られぬ様に
隠れ見ながら
もう
名前を聞くことはしまい
と
ゆっくりと思った
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