ずいぶんと忘れてしまっていた室内/真島正人
 
ありふれた夏の光がさえぎられて漂ってこない室内では、鼻をいくら大きく開いても何の匂いもかぎとれはしない。粉のような匂い。二種類の暗示。

一つ目の鍵を右手で持ったまま帰ってこなかった人がいたが僕はその類ではない。喧騒を程よく逃れてここで何をするのかといえば、何も注文をしないでいる。

ウェイターとウェイトレスがまるでつがいのように見える。偽ものの大きな石。それを切り取って、いろんな人にぶつけたい。

ゆっくりと、カメラが奥のほうへ移動していくように浮遊感覚がする。僕は時間を巧く切り取ることが出来ないが、こうしていると、へんだな、時間を感じる。それは後ろへ後ろへと下がっていくことでしか感
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