指先にあぶく/あぐり
 
たそれだけ

狡い人になりたかったから指を塗るのはやめて
小さな小さな傷をつけておいた
かわいそうね、かわいそうね
かわい、そう。
耳を舐められたら安心して眠れる
綺麗な指をしておくの
深爪。

ぴしぴしと打ち寄せる波は
わたしを絶対ひとりにさせない高等な仕組み
膝を指先でなぞりながら
水がぶつかってきえてうまれてきえるのを
見てた
あぶくがあなたの名前の形になって弾ける

呼吸出来ても産声とはもうみなされないんじゃわたしは生きているのかわからなくて
呼んだら来てくれるあなたの仕組みは
まるでまるで無関心さを捨てた水槽の中の海だった
ゆっくりと沈んでいく
あぶくがわたしをかすめて浮上していったんだ
夢の淵で爪先だけを濡らしている人たちみんな
なんにもなんにも
生きちゃいない



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