入学式/殿岡秀秋
 
しい穴に棲んだことがない

校長と教頭が挨拶して
担任が紹介されて式は終わる

青い蟹たちは
講堂を出るまでは並んでいたが
突然子どもに還って
声を発しながら
いっせいに校門を出てゆく

ぼくのからだは校門を通過しても硬いままだ
小学校から家へ向かう坂をくだると
しだいに海にはいっていく
ぼくの住まいは波の下にある

家に帰って制服を脱ぐ
甲羅に押された跡が
うずく肩
やがて口元がゆるんでくる

庭から見上げる空と
ぼくとの間に海があって
吐く息が泡になる

これから潮が引いたあとの磯と
波の下の穏やかな海の底で
交互に暮らすことになる



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