十月×日/岡村明子
 

かつて出そうとしていた手紙のあるらしいの以外は
感情はすっかり清潔に洗い流されたらしく
どこにも「生きる」ということの証拠はないのだった

告げられない思いを
あんな複雑なところにしまって取り出せないでいた
その人の人生の不器用さに
おなかがすいてたまらなかった

単純な私は
脂肪肝の標本を見たせいか
表へ出てもフォワグラのことばかり考えつづけた

無関係にいくつかの枯葉は地面を渦巻いていた
展示室の明かりが照らしている
骨格標本の走り出そうとする影

秋が
きていた

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