夜は沈黙の代価で震える/瀬崎 虎彦
 
夜は沈黙の代価で震える
いとしい
くるしい
あさましい
そういう感情の化合物で
誰が誰を傷つけるか予想できないから
おいそれと名前を用いることは出来ない

手前にはロック以来の経験論が
翼をはためかせているのに
由来も知らずに僕たちは
それを骨までしゃぶっている

目が乾くから暖房はつけないで
冷たい布団を重ねて
重く
苦しく
みずぼらしい
夜の寝台で
寒いよと口にしても
寒いねと答える声なく眠る

肉体に帰ると意識は
まず
自分がどこにいるのか
そして
自分がどこに閉じ込められているのかを
把握しようと躍起になる

そのときの意識には

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