あのひと/瀬崎 虎彦
いい詩をお書きになる あのひと
言葉はなんでもなくて、抽象性が無担保でまかり通る
それなのにそのひとの選ぶことばのならびをみて
とってもうれしいきもちになってしまう
このひとは本当はすごく悪い人で
夜毎眠っている野良猫たちの耳をガムテープで
塞いでいるのかもしれないが
そうだったとしてもそのひとの詩はやっぱりいい
ボートが波にさらわれて
向こう岸にたどり着けなくなったら
その時に思い出すであろう詩を
彼岸でじっと日傘を手に
待っていた誰かがいたことだけを
思い出すであろう詩を書く あのひと
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