空洞列車/do_pi_can
 
のオレンジの車内灯の中,心そこにあらずで,
窓の外,飛び去り行く季節の光彩をぼんやりと見ている
私は,そんなあなたの浮き出た細い白い鎖骨と
白い鎖骨の上の青い静脈と
静脈の横の小さな黒子を静かに愛撫している

窓の外を流れる光が
黒子の上で揺れている

「アキノ カゼ フカイ」と
あなたは言い,
さらに,「アキノ ヨルノ ヒカリ ト カゼ」と言う時の
あなたの言葉の波形が,私の手の中で
丸い艶やかな突起になる

あなたの黒いシルクのブラウスの
三つ目のボタンが,はじけ跳び
窓ガラスにぶつかり,
漆黒に溶ける

窓の向こう
欠けて行く月の虚ろが
あなたの鎖骨の窪みで
まどろむ

とまどう私の視線が
エナメルなあなたの唇の端を
さまよっている

「ツキノ ヒカリガ ワタシヲ ハダカニ スル」
色白いあなたの言葉から
さらに秋が深く立ち昇る

そして,
こちら側では,
疲れ果てた電車の形骸が
崩れていく。

どちらが
私の
意識の作り出した現象であったのやら


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