その音のノート/小池房枝
 
絶対音感なんて
贅沢は言わないから
一音だけ
例えばA音
聞けたらいいな

木の色
幹の色
梢の色

空の色
雲の色
雲のふちの色

色を日々
いろいろに見分けているように

街の様々
人の様々
何ごとかのクラクション
誰かの話し声

鳥たち
自転車の耳が風を切り
秒針
洗濯機
今目の前のパソコン

たったひとつ
A音だけでもそれとわかるなら
どんなにか親しく大切に思えることだろう

空気と風とが
同じものであるように
違うものであるように

音があって
音楽があって
A音ならA音と
たったひとつでも聞き分けられたらいいのに
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