彼と彼女のこと/瀬崎 虎彦
 

理路整然と物事を処理できる
高い性能を持った演算装置が
狭い筺体の中で喘ぎ苦しんでいました

私は無数の中継地点を経由して
いくつかのファイルに分散させて
声を届けたいと思いました
セキュリティは低く容易に侵入できました

こういうと私がウィルスのように思われるかもしれませんが
私は紛れ込んだウィルスによって暴走の寸前にいたった彼を
救い出すためのワクチンだったのです

雨が上がって鳥の声が聞こえてきました
呼吸する回数を数え身体の重さを意識しました
まだ生きられると彼が言ってくれたとき私は少し泣きました
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