彼方へ/小川 葉
 
 
高校を卒業して
家を飛び出してから
二十年になる

お盆と正月などには
申しわけなさそうに帰省してきたけれど
それぞれ五日ずつ滞在したとして
二十年かけても
わずか一年にさえ満たない

にもかかわらず
祖父は死に
祖母も追うようにこの世を去り
父も老い
母も老い
妹は嫁ぎ
わたしもいつのまにか
少年ではなくなっていた

一年には一年の
日々があり
かつてそれらは長く
途方もない彼方へと続く
ようにさえ
思えていたというのに

結婚して
息子が生まれて借家を借りた
それから早いもので
五年の月日が過ぎている

ああ
この月日よりも短い日々の中に
父と母の
長い一日もあったのだ

息子がはじめて
言葉をおぼえた
永遠に続く時の隙間に
光が射しこんだ日と
おなじ長さで

よろこびも
かなしみも
すべて等しい
彼方へ
 
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