「詠唱」/望月 ゆき
 
{引用=
白く、鉄塔が、明け方の空に溶けこむ。昨日からの読みかけのページをめくるように、朝は、なめらかにわたしに降る。ここから失われたものなど、ひとつもないかのように、無音のまま、満ちていく。水を、最後に与えたのは、いつだったろう。曖昧に、五線譜の上をたゆたい、スラーで結ばれていく記憶が、奏でる旋律に、耳をすます。あなたはもう、ずっと前から、実っていたのに。



地球の寝心地は、畳と似ている。湿り気を帯びた、緯線と罫線の、規則正しい織り重なりが、わたしをがんじからめにしてしまう。叩かれたら、丸く、蜘蛛みたいに丸くなればいい。皮膚を流れる汗が、畳に沈んでいくとき、混入していた不純物だけ
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