教室に向かって歩いていく/瀬崎 虎彦
恋人はまぶしい午後の光に
パウダースノーとなって朽ちた
彼女を運んで行った同じ風が
僕の窓際にサルビアの香りを連れてきた
季節がめぐって僕は知らない場所に行き着いて
生活はいつの間にか地面に根を張り
思い出すことと思い出さないことの間に
青々とした蔓草が城壁を築いていた
大好きだからそっとしておくべきものがあり
大好きだから距離をはかるべきことがあり
それ以外のことは日々の雑事に追い越されていった
希望の射程距離はいやおうなく短くなるが
年を重ねるごとに生きやすくなって
僕は今日も教室に向かって歩いていく
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