物語/山中 烏流
冒頭を彩る筆は、遂に滑らない
彼らは皆一様に
首をもたげたまま
こちらを伺っているというのに
(厚手のコートを着た女が
至極当然な素振りで水を口に運ぶ
魚のふりでも
しているのだろうか
しかし、彼女にえらはない)
中盤に差し掛かったところで
どこかと似たような景色が
私の中を練り歩いていった
それらは存分に私を覗いてから
満足そうに
またどこかへ消えていくのだ
そして、それはいつもの事だ
(遠巻きに眺める景色は
各々が主張をしていて
其処此処に散らばる原色に
私は、また圧倒される)
結末を飾る言葉は、逃避行を告げて
東雲と呼ばれた頃に
私を
置いていった
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漂うのは空気
彼女はそれ以上の言葉を紡がずに
そして、雨の匂いがする
そして、コートの翻る音がして
そして、
そこには誰もいなくなる
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