失われた色恋沙汰をめざして/パスカル
 
むかしは色恋沙汰をかきしるした歌や文学が嫌いだった
万葉の昔からバブル崩壊後の現代まで
なぜ世界は色恋沙汰で溢れているのだろうと思った
もっとすばらしいことが世界には存在するのだと信じた

新聞配達の最中に国鉄の線路に爆弾をしかけた
という、東京の孤独とか
金貸しの老婆を殺すことで自分の計画は実現されるのだ
という、サンクトペテルブルクの孤独とか
読めば読むほど孤独を深めて
孤独を発明することしかできない一〇代の夜

ところが自宅で酔っ払った三〇代の夜
同居している詩人と一緒に話をしていると
色恋沙汰の話もわるくないと思いはじめてきた

「秋だからかな」と詩人はいう
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