冬/こしごえ
 
一度きりあった
あの年の冬日和の空を
見上げた
雪深い底では私が眠っていた
春を待ちながら
かたい殻でおおった種子だった。
銀世界の予感の中心で
熱く流動する硝子のように夢を見ていた。
あの日以外は無表情に枯れた空
終りなく厚い雲の海原
真昼も真夜中も星星のささやきは遠く
並木道を風は青ざめて吹きすぎる
立ち止まる者は凍てつくか
おもい出になってしまう
私のように冬眠しなければ
この冬も越せない。
灰白の空のもとを歩むひとがいる
黒い外套を着て
どこへ行くのか
むき出しの顔は透けていて
白い息だけが熱い
― なぜ、こんなにもひとりなのか
と問う白さは雪を
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