手を離せば/銀猫
 
冬が背中のうしろまで来ている
今夜の雨は仄かにぬるく
地上のものの体温をすべて奪う雨ではない
むしろ
ささくれ立った地表を磨き
朝が来る前に
つるりとした球体に変えようとしている
古びたトタン屋根を叩く硬い水玉
窓硝子を斜めに流れる雨粒は
細心な角度を作ってみせる 
音が少し止んだ
遅れて
銀杏の葉から滴が落下する
その下に
ウォータークラウンが弾け
誰の額も飾らずに消えてゆく
夜が淵にさしかかり
夢魔の悪戯が加速すると
灰色の朝がもうやって来ないことだったり
来るはずの無い便りが届いたり
目覚めに思わず肩を落とす悲しさが潜んでいる
夢はいつも残酷であるの
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