食卓/朧月
私が
景色を切り取って綺麗にうたおうとしている朝に
母と祖母が冷たい戦争をしていた
庭では 冬支度がすすんでいた
家の中の空気と 外の空気が
同じぐらいの温度の朝だった
無言とは
ひりひりと 肌になにかがはりつくように感じるしぐさ
手先から 感情をこぼした二人の
食卓には湯気が見えない
定位置に座る家族という名の墓標
私は
役割を憶えていない女優のように
おどおどしてそこにいる
何年も何年もの年月は
私を大女優には育てはしなかったが
部屋の中の温度をあげることなく
ひとつの墓標としてお茶をすする演技だけは
うまくなったような気がする
お茶を持つ私の指先から
感情がこぼれている 音をかすかにきいた
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