恋文/小原あき
 
たったひとつの恋文
それは今
長期保存用に加工されて
クローゼットの中で眠っている

わたしは父と
ヴァージンロードを
歩くつもりは
さらさらなかったのに
どうしても歩かせたいと
きみが言うから

ぴたりと似合った
その白いドレスは
なぜかわたしと一緒に
嫁ぐことになった

レンタルでよかったのに
買っちゃったら
この先
どうすんのよ

良いじゃん、と
きみが言うから
将来、息子の妻にでも
着せてやろうかと
いじわるを考えたりした

だけど、やめた
だってこれは
きっと
最初で最後の
恋文かもしれない

詩も書けない
ラブソングも歌えない
きみからの
唯一の恋文

それはわたしだけのもの

加工されてるだけあって
まだまだ白さを忘れない

中身のほうは
すこしくすんできたけれど、ね

遺書に書いておこう
棺の中では
これを着せなさい、と

そう考えて
今、着られるかしらと
すこし焦った




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