献血/佐藤真夏
袖から腕を抜くことを
ためらっていた冬の朝
隠し事はだめなんだって
道徳的に、が口癖の私は
末端冷え性で靴の中が寒い
目が覚める前に
殺してしまえばよかった
なんて
冗談でも言ってはいけなかったこと
思い出して震える
雪掻きはまだ早い十一月
タバコの煙に包まれて
みるみる広がる
真っ白な
呼吸 ひとつぶん
ぱちん ぱちんと
消えてなくなる
命は燃える
知らない
死んでみたい
言ってみたい
あなたが
居なくならないで
そう言う度に
タブーを犯してしまいたい
結婚したい
言いたい
言いたい
わけもわからず
血を抜いて
世の中に貢献したくなる
窓際の
吸いがらひとつ
わたしの呼吸 七つぶん
毒を抜かれた
ペラペラのからだ
灰皿の上の砂嵐
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