しずかなモーターは順回転で幸福をはこぶ/ねことら
 


かすかに皮膚が振動していた
配線のくるったモーターが
きみのなかに棲んでいた
やさしいおとだ


ぼくたちのつながりは
こわれてしまいそうになる
緑や青のコードを
指でもてあそびながら
未完成の機械をうごかしていく


街はすりばち状に暗くなり
服も鉛筆も気化してしまった
コンビニも、ないよ
郵便局も、ないよ
きみのすきな喫茶店も公園も
なくなってしまった


なにもない世界で
きみに透明な比喩をあげたい
はなのかんむりみたいで
きっと似合うよ


人形が転がっててさみしいね
おとのない声でわらって
みなしごごっこをしよう
人造のこうふくが
空襲のようにふってきても
ぼくたちは目を閉じないでいよう
だいじょうぶ、ぼくは
きみのことが好きだから
ずっと澄んでいこう


あめのふる前の気配
日ののぼる前のしずけさ
未だはじまらないものがたりの
無色の封緘を解いていく


かすかに皮膚が振動していた
配線のくるったモーターが
きみのなかに棲んでいた
やさしいおとだ





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