餌男/doon
 

 鯉が泳ぐ
 餌が欲しくて口を開ける野生の鯉
 今日も馬鹿にした青年が石を投げる
 知っててよける鯉も
 分かってて投げる青年も
 それでも続ける

 蔑む視線と
 妙な期待の視線
 通行人は見てぎょっとする
 鯉がやたら多い
 ウジャウジャわんさか
 勝手に繁殖したんじゃないか?
 大概は気味が悪くて通り過ぎるか
 餌の代わりに草など投げ入れたりする
 でも鯉はその手に乗らない

 でもみた
 一人の男は餌をやった
 だからきっと鯉は揺れる水面で
 人の顔が分からないからとにかく口を開ける
 それが気味悪くていたずらをする
 でも、鯉にはちっとも怖くない
 慣れれば平気なのだろう

 鯉の口が何十も一気に開く
 誰に対しても
 そうして待つのはあの男
 餌を撒く男
 
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