楽園/望月 ゆき
 

{引用=
錘(おもり)によって、わたしの外側の水位は上昇し、その先のどこにもふちはなく、溢れることができないままの記憶を、てのひらですくっては、こぼして、すくっては、こぼす、そうやって衰弱していく過日を潤している。時おり、ただよう酸素に沿って、魚がやってきては、触れることのできないわたしの皮膚を、ついばもうとする。その流線型の残像からも、水源の行方を知ることはできない。それよりもずっと以前から、底辺とはこんなふうに限りなくほどかれた、ゆるやかな長調の旋律につつまれた場所であったと。




水脈は、合流して、いずれまた分かれて、流れは絶えずつづいている。あなたの手の甲に広が
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