薔薇の舞う季節/田園
その町には 薔薇の舞う季節がある。
薔薇の花が 花びらではなく 花個体そのものが
ほたほたと降って来るのだ。
その季節には一面が薔薇の花で埋まり
昔ながらの洋服店も 学校も ガソリンスタンドも
全てが薔薇と それに付随する毛虫で埋まる。
その毛虫は全てを喰らう。
絶え間なく降る薔薇の中。
毛虫は全ての食品 工業品 建築物
ありとあらゆるものにかじりつくのだ。
人々はその間 壕を作り静かに眠る。
季節が過ぎ 薔薇の雨が止むと
養分を蓄えた毛虫達は その動きを止め
蛹となり 蝶となり ひらひらと空へ昇ってゆく。
やがて そろそろと人々が起き出す頃
町は 見渡す限りが たいそうシンプルになる。
薔薇の舞う季節。
その季節は毎年やって来て
人々はそれを含みつつ 営む。
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