彼らもまた16時の憂鬱に耐えるため、ただ闇雲に戦っていただけなのかもしれない。/ひとなつ
 
たいに簡単に消えてしまった。

消えるインクのボールペン…

私は悟った

これは、弟が帰ってきた証拠だ!

私はベッドの下や、
カーテンの裏や、冷蔵庫のチルド室などをくまなく探したが、弟は出てこない。

もうっ!どこにいるんだバカッ!

私は腹いせに、弟がくれた綿矢りさの「蹴りたい背中」にパンチをかましてみた。
バレーのサーブみたいに。

すると、本の中から一枚の紙がヒラリと落ちてきたではないか。
手帳なんかを千切ったような紙っぺら一枚だが、これは弟の化身であるとすぐに分かった。

裏を見ると、走り書きでこう記されていた。
“変な時間に勝手に帰ってきてすまなかったね、20時の便に間に合わなくなっちゃうから今日はもう帰るよ、それじゃあまたね。良いクリスマスを…”

消しゴムでなぞると、文字はやはり消えてしまった。

「ありがとう

 ありがとう

 ごめんね」

なぜだろうか

私はそう呟いていた。


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