蛇口/百瀬朝子
蛇口をひねって
水が流れると思っていた
それはただの思い込みであった
いま、ここでは
ひねった蛇口から愛が溢れる
愛、なんて
眼に見えないと思ってた
見た事もなかったし
なのにどうしてわかってしまうのだろう
蛇口から出るこの
どろどろの液状を
どうして愛だと
わかってしまう
この蛇口から
愛が
溢れて
排水溝へ
流れてゆく
光景を
夢にしたくない
そうだ、
写真を撮ろう
忘れないように
いまが
嘘に
ならないように
もうこれ以上
失くしたくないし
夢も見たくないし
形に残しておけば
完全になる
なのにどうしてわかってしまうのだろう
この世には
完全や
永遠など
キレイゴトでしかない
どうしてそれを
わかってしまう
事実を受け入れ
許していく
くりかえしを
どうしてあきらめないのだろう
くりかえしに甘えながら
救われる夢を描きながら
どうしてわかってしまうのだろう
愛の出る蛇口なんて
ひねる力も尽きていた
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