むし/岡村明子
私は拒否された
冷たく重い扉の外で私はゴキブリのようだった
歯の奥でコンクリートがじゃりじゃりする
深夜四時
新聞受けに挟んだ手を抜くこともできぬまま
このまま朝まで過ごすのだろうか
回想すればきりのない
甘い痺れが頭のてっぺんから足の先まで
私を動けなくした
人生の速度は速いほうが幸せだろうか
それとも遅いほうが
子供のころの結論は
つらいことも速く過ぎ去って楽しいことがつぎつぎやってくる
速いほうが幸せだと思った
今は違う
時が逆行できないのならせめて
ここで止まってほしい
私を害虫のように駆除するのなら
せめて同じようにスプレーをかけてとどめをさしてほしかった
ゴキブリは殺される瞬間に腹から卵を産み落とすという
いま私の腹には
何がある?
ああ
無数のじんましん
掻きむしっても
何も出てきはしない
何も
無力感に身悶え
見上げた
空
そのとき
私の眼は朝日に射抜かれ
すべての思考が停止した
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