水蜜桃/岡村明子
赤ん坊の頬をなぜるように
水蜜桃の皮をむいていく
あなたの指が
汁にまみれて
窓から差し込む光に包まれている
甘い水が
赤ん坊の膚のような
産毛の柔らかい皮をはぐたび
したたる
したたる
私はベッドで熱い息を吐いている
肺がしゅうしゅういう
斜めに見ている
病院の窓枠からでも
今年の夏はずいぶん暑かった
私は乾いて
汗をかかなかった
いま
あなたの指の間からしたたる
水蜜桃のしずくが
生命の水だ
一滴含ませてくれるだけで
私は生き返るのではないかと思う
どんなに
腕から栄養の水を入れたって
山を登ったとき
高原の清水に手足を浸すより
栄養があるとは思えないんだ
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